子供の頃現在の柏崎市剣野小学校の裏手、小高い所にその農園は有った。今でこそ近くに大住宅団地が出来てしまったが、小学校以前の中学校さえまだ出来たばかりだったような気がする。その農園は初老のご夫婦がやっていて私の記憶に依ると果物栽培が多かった様な気がする。
特に強烈に印象に残っていたのは西瓜で有る。夏になるとこの農園へ出向いてわざわざ買いに行ってくるのだから、この農園の西瓜が如何に美味しかったか知れよう。近所にも八百屋さんは有ったし、季節ともなれば西瓜売りも来ていたのにである。お値段は決して安くは無いのだが、兎に角品質が良く、期待を決して裏切らない味だった。
私達子供が行くと必ずお菓子を戴いたような気もしたが、それはもうすっかり忘れてしまった。とにかく重い西瓜を姉と二人して運んできて近所の「二つ井戸」と呼ばれる井戸に冷やして置くのである。今みたいに冷蔵庫なんて無いから、井戸の冷たい水で西瓜を冷やすのが一番だった。それを食べた時の美味しさと言ったら・・・。
その農園のお家は確か藁葺き屋根だったような記憶があって、高い場所にある日当たりの良い家だった。まさしく「日本昔話」に出て来るようなお家だったのである。この農園は当時あまり八百屋さんで売ってなかったような珍しい外国産の果物も作っていた覚えがある。初めてそれを口にした時は新鮮な驚きがあった。
ご夫婦はとても穏やかで感じの良い人達でいつまでそこで農園を続けたのかは全く分からない。ただあんな高台で水の便なぞさぞ悪かっただろうと思われる所に良く農園を開設していたものだと今更ながら不思議に思う。もう私の記憶の中ではおとぎ話と化していて何処から何処までがホントだったか判然としないのだ。
ただ振り返って見ればあの頃が一番良かったような気がする。時の流れがゆっくりしていて世知辛くなかった。私の脳裏に何時も浮かぶのは桜の花が傍らに咲いていた藁葺き屋根のY農園なのである。
