すかんぴんのブログ「今日もヒマだぁ~」

暇を持て余して、お山、お絵かき、蕎麦打ち、山菜採り、キノコ採り、音楽鑑賞、オーディオ、パソコンと、あれこれ手を出し、もがいているジジイのページです。

借家の思い出

 子供の頃はウチはチョー貧乏だったので三軒長屋の真ん中の所に住んでいた。鉄屑屋という商売をやっていたので、たまにお客さんが鉄屑や銅線屑などを売りに来る。

 

 で、こう言うお客さんの中に夕方にやって来る人がいるのだ。屑を売ってお金を受け取り、そのまま帰ってくれればいいのだが、長年の顔馴染みのお客さんだと、どうしてもお茶の一杯も出さなければならないから、家に上げる。

 

 さあ、こうなると困るのがお袋や我々子供達だ。そろそろ夕飯なのでちゃぶ台を出して、晩ご飯にしようかと思っている時、上がり込まれるのだから。

(オーイ、アンタはん、夕飯時なのに家へ帰らなくていいのかよ。カーチャンが家で待ってるでよー)

と心の中で恨めしく思ったものだ。何せ家はたった八畳二間。お客さんが帰らなくては晩ご飯にならない。もう一間は寝間でこちらには灯りがなかったからだ。

 

 当時はこんな家は世間にざらで、我が家の常連客Uさんの家も父親がお巡りさんをしていたので、駐在所に住み、我が家と同じ二間暮らし。これまた夕飯時に近所のオヤジが酒を飲みに来て上がり込んだという。当然こちらも子供は晩ご飯はお預けとなる。Uさんのお袋さんは箒に手ぬぐいを被せて立てるおまじないをしたという。(笑)

 

 大体夕飯時に他人様の家へ来て長居をするという非常識な事をしているのに、本人はそれが当たり前の事と思って全然気がつかないというのも困ったものだ。しかもそれがたまたまでは無い。毎度の事だから堪ったものではない。だからこう言うお客さんはいくら商売で儲けさせてくれる人で有っても、勢い母親や子供達には嫌われる存在となる。

「♪帰~れ、帰~れ、さっさと~・・・」

と当時流行っていた「星のロザリア」を小声で歌ったものだった。

 

 お茶くらいで済むお客ならまだ良い。これが酒を出さなければ満足しないお客だと、尚更始末が悪い。更に長っ尻になって一体何時まで居座るやら・・・・。その頃の子供は今と違って、普段碌なものを食ってないから、いつも腹ぺこ状態なのに、こうやってお預けを食っているんだから、もう堪忍袋の緒が切れる寸前まで行っている。お客さんが帰ってから不平不満が親父殿に集中するのは当たり前だ。親父殿に頼み事をするのはこんな時に限る。大抵何か買って貰える。子供は子供なりに悪知恵が発達していたのだ。(笑)

 

 お客さんの中に酒が好きで好きで堪らない人がいた。性格は悪くないし、人情家なのだが、話し好きで酒が入ると陽気になる。ただ困った事に少しお年を召していてアル中気味の所も有ったので、彼が帰った後は必ず座布団が濡れていた。そう、そのお客さんは毎回必ずお漏らしをして帰って行くのだった。酒に酔っていて本人はその事に全く気付いていない。

 

 辛抱強いお袋も流石にこれには参った。毎回座布団一枚を台無しにされるのだ。有る時、意を決して旦那様にご注進に及ぶ。もう決してあの人には酒を出してくれるなと。まあ親父殿も流石にお袋に悪いと思ったのか、次回からそのお客には酒を出さなくなった。するとそのお客は鼻を曲げたのか、以後二度と我が家に足を運ばなくなった。でも親父殿はカーチャンや子供達に迷惑を掛けていた事を反省したのか、少しもその事を悔いていなかった。寧ろその客さん自身が早く気付いてくれれば良かったのにと思っていたようだ。そうだよ、僅かばかりの儲けで座布団を毎回台無しにし、子供達を不幸に陥れる様な事は有ってはならないのだよ、親父殿。

 

 かくして夕飯時に訪れるお客さんはまだ2,3人いても最大の難敵はいなくなった。我が家に平和が訪れたのは言うまでもない。