夕方Kさんがレコードを抱えてやって来た。折しもちょうど私もレコードを大音量で鳴らしていたので、入ってきたのに全く気づかなかった。Kさんは入ってくるなり、
「何だ、ここんちのステレオまた高音が出てないじゃねえか。」
とのたもうた。まあ、言われなくてもわたしもそうは感じていた。だがなんで出なくなったか不思議に思っていた。
「この前みたいにまたチャンデバ構ったんじゃないの?」
「いや、元に戻してから構ってないよ」
「じゃあ、なんで出ないんだ。天下のアルテック使っていてこれはないだろ。」
「いや、Yさんの最近作ったカートリッジあんまり高い方出ないんだよ。」
「そんな事ないさ。俺もYさんちでYさんのカートリッジ聴いたけど、こんなに出てないことないぞ。さっきのレコード、アルトサックスの演奏に聞こえんじゃないか。」
うーん、確かにそうはオイラも感じてるんだけど、おっかしいな?と、イコライザーアンプにふと目をやると、RIAAカーブを調節するつまみが思い切り低域側に絞ってある。
「あれ、なんでこれが絞ってあるんだ。道理で高音が出ない訳だ。クソッ、いったい誰がやったんだ?」
「お前さんの他にやる奴なんていないよ。全く今まで気づかないなんてどうかしてるぜ。いったいどういう耳をしてるんだ。」
「アハハ、いやー、おかしいとは思ってたんだけどね。大体このつまみはいじった記憶がないから、たぶん誰かが隣のボリュームと間違って回したんだろ。」
と、どこまでも他人のせいにする私であった。まあ、こういう時は笑って誤魔化すしかない。Mさんから教えて貰った金言を思い出す。
「笑って誤魔化せ、自分の失敗。激しく責めろ、他人の失敗。」
いや〜、まさしく金言ですなあ。(アホ!)
で、Kさんが帰ってから改めて高音が戻ってきた我が装置で思い切り大音量でジャズを聴くのでありました。(近所迷惑だよ!)