Yさんの所へパソコンを納入に行ったら電蓄を作ったから聞いていかないかと言われた。この電蓄はNさんから買った物だが、中身のスピーカーやレシーバーは欲しい人に売ってしまって残ったのはプレーヤー部分とキャビネットのみである。だがこのキャビネットが中々良い。
このままにしておくのは勿体ないので、Yさんはアンプ部分を作り、プレーヤー部分と繋げた。ところで皆さんは電蓄、すなわち電気蓄音機をご存じだろうか?まあ、一昔前のプレーヤー、スピーカー、レシーバー(アンプ+チューナー)を一体型にした物と同じような物である。違いはステレオでなくモノであることと所謂カートリッジ部分が今のようにコンパクトでなく鉄針を使っている事だ。要するに蓄音機は電気増幅をしないが電蓄はプレーヤーのモーターもそうだが電気を使うのである。
だが初期の電蓄は蓄音機と比べて音が良かったかと言うと必ずしもそうでない。まあそれぞれ完成度の問題もあろうかと思うが、得てして最初の頃は完成度が低いから音的には?なのである。
そこでYさんは電蓄でも音の良いモノにしようと考えた訳だ。で、カートリッジ部分のところだがこれはカートリッジを寄贈したKさんが既に改良していた。元々付いていた馬蹄形の磁石を私があげたサマリウム・コバルトの磁石に替えたのである。後は調整だ。アンプとの兼ね合いもあるので、あまり大音量再生にはしなかったそうな。
この電蓄、SPレコードの片面盤がいいそうな。片面盤というとかなり時代が遡る。1820〜30年代の録音である。これはマイカ(雲母)を貼ったサウンドボックスの蓄音機などで再生すると中々雰囲気が出て良いのだが、果たしてこの電蓄はどうか?
Yさんに依ると声楽や弦楽器が良いのだそうな。で、早速ネリー・ミルバとミッシャ・エルマンの片面盤を聞かせて貰った。驚いた。まずSP盤のノイズが少ないし、蓄音機特有の付帯ノイズも出ない。それに周波数レンジが広いし、音も大きい。だからと言って蓄音機や昔の演奏の雰囲気を少しも損なってはいない。これは久しぶりにいい音を聞きました。流石にオーケストラ再生は駄目だそうだが、なに元々片面盤のオーケストラ録音そのものがそんなにいい音で録音されてないのだから、これはしょうがない。
今の方はすっかりCDの音に慣れてしまっているでしょうから、こういう音が果たしていい音かどうかは分からないかもしれません。だがこれだけはハッキリ言いたい。新しい技術が昔の技術を超えているかというと、必ずしもそうとは言い切れません。単に便利になっただけです。真に演奏者の意図する所を良く伝えているのは案外SPレコードとこの電蓄なのではあるまいか?その証拠に楽器を演奏する人にSP盤を聞かせると必ず「こちらの方が楽器の音に近い」って仰います。
レトロな音と言わば言え。真の音楽はここに有りますよ。