以前郵便局で荷物の中身を真空管と書いて送ろうとした時、真空管って何ですかと訊かれたことがある。これには私もちょっと驚いた。まさか真空管が最早若者の間で通じなくなっている言葉だとは思いも寄らなかった。フレミングが二極管を発明してから百年余。ついに真空管がなんたるかを知らない世代が出て来た。(笑)
まあ、知ってなくても別に生活に困る訳じゃ無し。知らなくてもいいんだけど、トランジスターの前身的役割を果たした物くらいは学校で習ったんじゃ無いかと思うんだけどなあ。そもそもどうしてスピーカーから音が出るかなんて、考えたことがないんだろうな。ま、これも知らなくてもどうってことないんだけど、今の時代は余りに半導体技術が発達しちゃったから、どうして作動するかなんて考えるには機械を分解しても分からないから、尚更考えないのだろう。動く様に出来ているから動くのだろう程度にしか思っているに違いない。別に原理なんて知らなくてもスイッチオンでちゃんと動いてくれるのだから。
でもねえ、せめて簡単な原理くらいは知っていると楽しいんだけどと思うのは、こちらの勝手な理屈か。まあ便利な時代に育つと、工夫するとか試してみる、作ってみると言うのは一部特定の人達を除いては段々廃れて行くのかも知れない。我々年取った世代から見るとある意味つまらない時代になりました。
まあこう言った品物だけじゃなく、文化、芸術も時代と共に忘れ去られて行くと言うことが有るようで。いつだったか町内の若者達と話をしている時、音楽の話が出て、私の音楽ジャンル、ジャズの話になった。そこでルイ・アームストロングの名前を出した時、彼は「誰ですか、その人?」と言った。彼はもう40代だから、いくら何でもサッチモ(ルイの綽名)くらいは知っているだろうと思ったのだが、やはり時代の流れは如何ともし難い。ついに音楽が好きな者なら当然知っていておかしくない名前までも忘れ去られているのである。無論ジャズファンなら知らない者はいないだろうが、昔はジャズを聴かなくとも、誰しもが知っていた偉大なジャズの王様である。
やれやれ遂にこんな時代が来てしまったなと私はため息をついた。これと言うのも近年は良質の音楽番組がテレビから消えてしまったことが原因の一つではないかと思う。古いから音楽として駄目な訳ではないのだから、どうやって近代音楽が発展してきたのか、たまにはテレビで教えたらどうか。吉本のお笑い芸人達をゴールデンタイムに出演させ、くっちゃベらせているだけの娯楽番組ばかりでは困る。私に言わせれば学校の音楽の時間はクラシックばかりでなく、ジャズの鑑賞時間が有ったっていい筈だ。
テレビは文化、芸術を伝える手段としてこれ位便利な物は有るまい。それだけにもっと有意義な番組を作って貰いたいものだ。せめて真空管やサッチモの名前を常識で知っている程度にはなってもらうためにも。