さてデリケートな私はなかなかしっかり寝ることが出来ずに、あっちへゴロリ、こっちへゴロリと狭い空間で一晩中まんじりとせずもがいていた。一方Mさんはグーグーと高いびき。図々しい神経の持ち主っていいなあ。そうしているうちに少し空が白んでくる。窓越しに外を眺めると満月の下ハッキリと槍ヶ岳が天に向かってその鋭鋒を突き立てている姿が見えるでは無いか。おお、これは今日は期待が持てる。頼む、半日でいいから雲が出ないでくれと祈った。
満月と槍ヶ岳
東の空が明るくなってきた。残念ながらお天道様と富士山は雲の中だった。
今日はしっかりと燕岳も姿を見せている。頂上には既にご来光を見んとて数名が立っているのが見える。うーん、最高の夜明けだべー。山荘前で各々の記念写真を撮り、いざ出発じゃー。おっとその前に腹拵えを。
朝食は軽めです。お弁当も戴いて準備万端。私は記念にバンダナを買う。早朝5時25分に山荘を出発。ガスが掛からないでくれよ。
槍ヶ岳のどアップじゃー!小槍、孫槍も付いてるでよー。
正面の尾根は東鎌尾根。左手に大喰岳(おおばみだけ)、中岳と続きます。
燕岳は花崗岩質の山のため奇岩、景勝の連続だ。イルカ岩、眼鏡岩を通過して頂上へ進む。
まるで異次元の惑星に迷い込んだような気分にさせてくれる光景が展開。
燕岳頂上。標高2,763m。もうこれ以上望むべくも無い光景が広がっています。
さて本日の目的は燕岳往復では無い。欲張って北燕岳を経て東沢乗越〜中房温泉の周回コースと決めてある。これからはそちらへ行く登山者は私たちを除いてわずか2名だった。さもありなん。こんなローカルなコースを取る者は餓鬼岳へ縦走する以外誰も取らないだろう。大抵は表銀座と呼ばれる大天井岳(おてんしょうだけ)を経て常念岳か槍ヶ岳へ向かうコースを取るからだ。ふふふ、ワシはひねくれ者じゃけんに人が少ないコースが好きなのじゃよ。その方が静かな山旅を楽しめるからのう。
北燕岳手前で雷鳥さん達に出会う。相変わらず人を恐れない。3羽で仲良く餌を啄んでいる。エー、お食事中誠に申し訳ございやせんが、ちょっと道を空けておくれやす。
先を急ぐから今回は北燕の頂上アタックはパス。北燕岳の直下を迂回してお花畑の中を進みます。しかし高度はどんどん下がって行く。え、これでいいの?エー、いい訳ないので有りまして、やがて一転して今度は登ります。壁のような所に差し掛かります。ロープ、鎖は無いので僅かな窪みを手がかり、足がかりにして登ります。落ちたら多分死ぬな、こりゃあ。道理で登山客は滅多にこちらにゃ来ない訳だ。
餓鬼岳の剣ズリのような岩場地帯を右に巻いて崖を登ります。オッカネー!
美しい山々の姿を見ながら一歩、また一歩。これぞ縦走の醍醐味。
右手から剱岳、別山、立山ですが、ここまで遠くの山がしっかり見えました。
槍、穂高連峰全体がここまで来るとハッキリ見えます。
槍ヶ岳、大喰岳、中岳に続いて南岳、大キレットを経て北穂高、奥穂高、吊り尾根から前穂高岳です。
東沢乗越に向かう分岐に来ました。後から単独でやって来たオジサンと挨拶を交わし、記念写真を撮ってあげました。
さてこの美しい風景も最後の見納めです。しばし休憩してこの光景を目に焼き付けます。そしてこれから東沢乗越を経て出発地点の中房温泉に向かいます。しかしこの時誰がこの先地獄が待っていようと想像したでしょうか・・・・・。