久し振りに保育所以来の同期生M君が立ち寄った。あれ、自転車? そうか、この男は私と同じ糖尿病患者だからまた足腰を鍛えてカロリー消費を図っているのだなと思いきや、そうではなかった。
家に上がって貰ってコーヒーを出すと
「いやあ、とんだ失敗をしちゃってさあ。馬鹿を見た」
と言うから何のことかと思ったら、
「知らないうちに車の運転免許の更新期間を過ぎてしまっていたんだよ」
と言う。
「えー、だってあれ更新期限が近づけばお知らせが来るようにしていたんじゃないの?」
「うん、そうして置いた筈なんだけど何故だか1年近くも更新し忘れちゃったんだ。」
「じゃあ、免許が失効していたのに運転していたって事? おいおい、お巡りさんに見つからなくて良かったなあ。」
それにしてもおかしな話だ。普通通知が来れば大体失効しないうちにさっさと手続きを済ませる物だが、どうもしなかった所を見ると案外通知に気づかなかったのかも知れない。と言うのも彼は良く低血糖になり病院へかつぎ込まれることがあるので、ひょっとしてその間に通知が来たのだが、家族がうっかりしてその事を彼に告げなかったのかも知れない。
だとすれば誠に運が悪かったとしか言いようが無いが、問題は運転が出来ないことで有る。免許を再取得しようと自動車学校へ通うと、今や22万円程度掛かるらしい。銀行にローンを申し込んでも年金暮らしの70歳老人には貸せないらしい。とすれば残る手段はただ一つ。直接教習所で検定試験を受けて合格するしか無いのだが、それさえただで出来る訳でも無いし、合格する保証は何処にも無い。
そんな訳でM君は車を運転することを諦め、原付バイクにでも乗ろうかなと考えているらしい。でも雨の日もあるし、ある意味バイクの方が年寄りには反って車より危険だ。地方において車が使えないのは不便だが止むを得まい。買い物程度なら奥さんか息子さん辺りにでも連れて行って貰うしか有るまい。どうせそのうち免許返納しなきゃならんと木が来るのだから。
とは言えあと10年は乗れただろうにM君にとってはとんだ災難だったというしかない。しかし笑い事では無い。私も今年の12月に更新することになるから精々他山の石として忘れないよう努めなくては。